4.飼育による研究               目次にもどる

個体の成長や行動といったことを自然の状態で調査するには、個体識別法などによって調査しますが、補完的に飼育して分析にすることもあります。カナヘビの場合、野外で繁殖のデータをとることがむずかしいので、捕獲した個体を一時的に飼育して、産卵や孵化のデータをとることがあります。ヤモリ類の一部では集合して産卵する場合があり、ニホントカゲのように営巣して卵の保護を行う習性をもつものがありますので、そのような種類では、野外で直接観察を行ったほうがよい場合もあります。

寿命はトカゲ類の場合、天敵の捕食による死亡が多いため、自然個体群において生理的寿命まで生存することはないといってよいでしょう。野外での生存率と飼育下での生理的寿命の両方を分析するといったことも行われます。いずれにしても、数年以上生存し続ける個体がでてきますので、野外調査で個体の記録を続けていく場合も、飼育して観察し続ける場合も、長期の作業になります。

行動についても、カナヘビの場合、野外では日光浴以外の行動は草むらの中の見えにくい状況が多く、飼育下で観察したほうがよいという場合が多くあります。

ただし、飼育下では行動する空間の広さが限られていることや餌などの条件が、野外とは異なっているといったことを頭においておくことが必要です。

飼育方法については、このホームページの飼育方法のページなどを参考にしてください。

繁殖のデータをとるときは、できるだけ産卵直前のメスを捕獲して一時的に飼育します。産卵までの飼育期間が長くなると個体の栄養状態が悪くなる場合や肥満状態になる場合がでてきます。親メスの測定(体長、体重など)を行い、産卵後も測定を行います。できるだけ産卵直後の卵重を測定し、孵化直後に幼体の測定(体長、尾長、体重)を行います。孵化した幼体を個体識別して、親メスの生息地に放すといった研究例もあります。私の調査では、放した幼体が成体になってから再捕獲され、その個体が産卵して、孵化した幼体を放したといったことがありました。

飼育下での行動の観察は、細かい動作まで見ることができます。見たことを筆記によって記録するといったことでもよいのですが、動画や写真による映像記録を保存しておいたほうがよいでしょう。筆記記録では、行動を主観的に解釈したものとならないように注意します。「2個体がけんかして餌をとりあった」と表現するのと、「同じミールワームを2個体が同時にくわえた」と表現するのでは、後者のほうが的確な情報を記録したことになります。

飼育下で行動を観察・記録する場合は、単独飼育なのか複数飼育なのかといったことや、複数飼育の場合は同居個体の素性(体長や体重などの測定記録、捕獲地、飼育年数など)といったことも記録しておきます。


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