はじめに

 トカゲ類の生態を調査研究する方法は多様です。トカゲ類の多くは、小型で取扱いやすいので、専門的な用具を揃えなくても、多くの生態学的調査を行うことができます。ここでは、一般的に市販されている器具を使用して調査することを想定して、その調査方法を解説します。 トカゲ類の生態調査は、現地で生息している状態のままデータを得る方法、採集して標本(体の一部の採集を含む)を分析する方法、飼育して観察することでデータを得る方法があります。生態研究では、研究目的に応じて、それらを組み合わせて調査します。
 ただし、近年、さまざまな爬虫類の野外での個体数が減少してきていることから、研究する場合も、標本や飼育個体の採集は必要最小限にするといったことが守られています。種類によっては、法律や条例で捕獲・採集が禁止されています。カナヘビ類では、宮古諸島のミヤコカナヘビと八重山諸島のサキシマカナヘビが「種の保存法」で捕獲・採集が禁止されています。研究で捕獲が必要になるときは、環境省などの捕獲許可が必要になります。
 また、捕獲・採集が禁止されていない種類でも、飼育して研究する場合は、動物愛護に関する法律を守ることが求められます。大学などでは、飼育個体の取り扱いに留意することについて、ひとつひとつの飼育研究の審査とチェックが行われます。爬虫類も対象です。
 野外に生息している動物を調査するときには、法律や条例を守るだけでなく、どのような種類でも、生息数や生息環境への影響を十分に配慮して行うようにしましょう。ニホンカナヘビやアオカナヘビの場合も、まだ、あちらこちらにいるからといって、安易に生息状況に影響を与えそうな調査を行わないように注意が必要です。

ちなみに爬虫類以外の陸上脊椎動物では、哺乳類と鳥類のほとんどの種類が「鳥獣保護管理法」などの法律で捕獲が禁止されています。捕獲が必要な調査研究は、環境省などの捕獲許可が必要になります。両生類は、爬虫類と同様、捕獲・採集が禁止されている種類は一部です。ただ、両生類は絶滅危惧種が多く、集合して繁殖する習性がある種類では、繁殖地の状況への悪影響は個体群の存続を危うくするので、両生類の調査でも、同様のマナーが必要でしょう。

トカゲ類の調査研究で調査しにくい点は、繁殖している場面などに、野外ではまれにしか遭遇しないといったことがあります。鳥類、とくに巣箱で繁殖する種類は、営巣している状況を調べることが可能です。産卵数や巣立ち数といったデータが得られますし、巣立ち前の幼鳥に足環を付けて個体標識するといったことも可能です。両生類は、繁殖場所に集合して産卵する種類の繁殖状況の調査は容易です。ただ、繁殖地から分散したあとの個体をみつけることがむずかしいといえます。

ところで、同じ爬虫類のヘビ類は、トカゲ類と同様に、いろいろな調査法を組み合わせ調査することが可能です。問題点は、トカゲ類以上に野外での遭遇機会が低いことです。多くのヘビ類が大きな餌を丸呑みしますが、いったん食べるとしばらく巣穴から出てこないといったことがあります。小さい餌動物を常に探索するトカゲ類とは、野外調査でデータをとる場合の留意点に若干の違いがあります。また、爬虫類のカメ類も野外調査を行いやすいといえますが、難点は寿命の長さです。それでも最近は、20年、30年といった長期調査の結果が発表されて、興味深いことがわかってきています。

 次章から、トカゲ類の生態調査について、主な調査方法を説明します。


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