エゾアカガエルのコメント                               もどる

分類

エゾアカガエルが属するアカガエル属(Rana)はかつて400種ほどが属する大きな分類グループであった。現在は54種ほどがアカガエル属に分類され、日本に分布するアカガエル属は、エゾアカガエル、ヤマアカガエル、チョウセンヤマアカガエル、ニホンアカガエル、ツシマアカガエル、アマミアカガエル、リュウキュウアカガエル、タゴガエル、ナガレタゴガエル、ネバタゴガエルの10種。かつてアカガエル属に分類されていたトノサマガエルやツチガエルなどは別属に分類されている。分子系統解析が進み、属の分類が細分化されてきたが、アカガエル亜科(Raninae)の分類段階やその中の属の分類を見直したほうがよいという見解もあり、今後分類が変わる可能性がある。

分類が大まかな形態分類によって行われていた時代に、エゾアカガエルはアカガエル属の基準種でもあるヨーロッパアカガエル(Rana temporaria)と同じとされていた。ヨーロッパアカガエルの亜種とされていたこともあった。その後も分類の変遷があったが、1991年に松井正文氏の論文によって分子系統解析を含めた新種としての記載が行われた。その新種記載によって学名Rana piricaが命名された。タイプ標本(基準標本)は、札幌市南区中ノ沢川沿いの遊歩道付近の河川敷で採集された個体。その後、北海道の周辺地域の近縁種を含めた遺伝子分析と形態の解析が進み、北海道の他にサハリンのものもエゾアカガエルであることが示された。

参考文献

Matsui, M. 1991. Original description of the brown frog from Hokkaido, Japan. Japanese J. Herpetology  14:63-78.

Matsui, M., A.M. Bassarukin, K. Kasugai, S. Tanabe and S. Takenaka. 1994. Morphological comparisons of brown frogs (genus Rana) from Sakhalin, Hokkaido and Primorsk. Alytes 12:1-14.

Tanaka-Ueno, T., M. Matsui, T. Sato, S. Takenaka and O. Takenaka. 1998. Phylogenetic relationships of brown frogs with 24 chromosomes from Far East Russia and Hokkaido assessed by mitochondrial cytochrome b gene sequences (Rana: Ranidae). Zoological Science 15:289-294.


生活史

 エゾアカガエルは早春に繁殖する。雪解けが進み、繁殖する池や湿地の水面が凍る恐れがなくなった頃に産卵に出てくる。オスが鳴き交わしている所にメスが現れると、オスがメスの背中におぶさるようにつかまりペアとなる。場所やメスをめぐっての争いといったことは行われないが、ペアの後ろから別のオスがつかまろうとしてくるので、ペアとなったオスは常に接近する別のオスを蹴落とす行動をとる。メスが産卵してオスが放精するとペアはすぐに別れ、オスは鳴き交わし始める。繁殖行動は昼間も夜間も見られるが、日暮れが近づく時と夜明けの頃は繁殖行動がやんで、水面に1個体もいないという静かな時間がある。産卵された卵塊はゼリー層が次第に給水して大きなかたまりに膨らむ。メスは1シーズンに1卵塊を産むので、そこにいくつの卵塊があるかで、何匹のメスが産卵に現れたかがわかる。あとから現れたメスは産んである卵塊に付けるように産むことが多く、卵塊群は次第に大きくなっていく。繁殖季節は平地で4月頃、高地では7月頃になることがある。12週間で孵化して、幼生はふつう夏までには変態して幼カエルになり、上陸すると林床などに散っていく。成体になるまでの成長過程や夏季の林床での生活はほとんどわかっていない。エゾアカガエルは指先に吸盤がないカエルなので、樹上に登るといったことはなく、林床の地面や水際で採食して暮らすと考えられる。縄張り行動といった個体間の干渉は見られない。越冬は主に水中で行われるが、水際の土中から現れることもある。繁殖場所で越冬するというわけではないので、繁殖時期の前に水中や水際を移動する個体を見ることがある。


卵塊群のところに来たペア(左写真)、産卵後オスが立ち去った後のメスと放出した卵塊(中央写真)、卵塊群のところで待ち構えるオス(右写真)


産卵後1日程度の卵塊(左写真)、多くの卵塊が卵塊群になる(中央写真)、日数が経過した卵塊群は卵塊の境が不明確になる(右写真)


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