和名 アオカナヘビ                        日本のカナヘビ類にもどる

学名 Takydromus smaragdinus Boulenger, 1887

英名 Green grass lizard

別名 ジューミー、アンダチャー、カランクェー、ソージマヤー、ナジナブーなど

学名の意味 エメラルドグリーンの速く走るもの

分布
 トカラ諸島の小宝島、宝島、奄美諸島の奄美大島、徳之島など、沖縄諸島の沖縄島、渡嘉敷島、久高島など

形態
 体長(頭胴長)の最大は70mm程度、尾長の最大は230 mm程度。ニホンカナヘビと似た体型だが、より細長く、頭部も吻端が細く尖る。吻端近くから尾まで両側の体側を白条が通っている。体色は背面と側面が緑色ないし黄緑色、腹面が黄緑色ないし淡黄色で、雄はふつう体側に茶色の帯が通っていて、緑色が濃い。体色変異は多く、雄も雌と同様に茶色の帯がないことがある。カナヘビ属(Takydromus)は、鼠径孔(鼠径部に両側に分泌孔があいた鱗がある)と咽頭板(頭部腹面の顎下の左右に並ぶ大きな鱗)が分類形質として重要であるが、鼠径孔はニホンカナヘビは2対が基本で、アオカナヘビは1対、咽頭板はニホンカナヘビは4対が基本で、アオカナヘビは3対が基本である。

生態
 ハビタットは灌木林と草むらが混在した明るい場所で、草の上や低木の枝上を素早く動く。産卵はほぼ2卵を湿った場所の草の根元や石の下などに産み、1年に3回以上産む。1ヶ月ほどで孵化し、孵化したときの幼体の頭胴長は25 mm程度で尾は60 mm程度。孵化した翌年には成熟して繁殖する。食物は昆虫やクモ類などでニホンカナヘビと同様。冬眠は行わず、暖かい日には冬季でも出てくる。小さな草むらでも生活することが可能で、市街地の家の庭でも見ることがある。

参考文献

・前之園唯史・戸田守 2007 琉球列島における両生類および陸生爬虫類の分布. AKAMAATA 18:28-46.

・竹中践・当山正直 2013 表紙の解説 『ジューミー』(沖縄).爬虫両棲類学会報2013 (1)

・当山正直 1984 琉球の両生爬虫類.日本生物教育会沖縄大会「沖縄の生物」編集委員会編、全国大会記念誌「沖縄の生物」:281-300.

(2020.10.8)

(2021.4.4 修正)

追記 アオカナヘビの減少要因と農薬の影響

 アオカナヘビは奄美諸島、沖縄諸島、トカラ列島の一部に分布していて、生息している各島嶼によって生息状況が大きく異なる。かつては、どの島でも高密度で生息していたと考えられるが、私が沖縄を訪れるようになった1970年代には減少が始まっていた。沖縄島南部のサトウキビ畑地域で、ひとつの畑には100匹以上が見られるのに、別の畑にはほとんど見られないといった状況があった。次第に、民家の庭沿いや水路のカヤツリグサ群落に限られるになってきた。減少要因としてまず考えたのは、農薬使用であった。ところが殺虫剤の散布状況を農家や役所から聞き取りしても、これぞといえるアオカナヘビ減少との関連は得られなかった。むしろ沖永良部島では、移入して増えたイタチのほうが関連しそうであった。あるとき、再三訪れていた沖縄南部の広場脇の草むらで探索していたところ、近所の人から意外な話しを聞いた。除草剤を撒くと、翌日、アオカナヘビがころころ死んでいると言うのである。アオカナヘビは草葉についた水滴を飲むので、それはありえると思った。除草剤について文献を調べてみると、当時は、植物が対象の除草剤については動物への毒性に関するデータは見られなかった。しかし、候補になりえる除草剤の話題を見つけた。パラコートという除草剤が無味無臭のため、人に関わる事故がおきたことがあり、忌避的臭いをつけるようになったというものである。その薬剤の認可年度がアオカナヘビの(ニホンカナヘビでも同様の減少が屋久島でも見られたのだが)減少と符合するように思えた。この薬剤のアオカナヘビへの致死性を証明すればよいと考えたが、ことはそう簡単ではなかった。毒性試験の専門家に聞いたところ、動物実験倫理から、爬虫類に対しては、死亡を前提とするような投与試験は行えないこと、薬剤の影響を検証する精度の高い実験が必要であり、専門的な知識と技術が必要であることがわかった。状況証拠から推定することも困難であった。殺虫剤の空中散布などと違って、除草剤散布は小規模で記録は残らない。また、たくさんいた頃にアオカナヘビの密度をきちんと記録するといったことは行っていなかったので、減少に気づいたときには、相関を検討するデータがないというわけである。ただ、たとえば、沖縄のサトウキビ畑、屋久島の果樹園、本州の除草剤が散布された水田畦や畑周辺の状況を考えれば、カナヘビ類の減少要因のひとつであることは疑いないであろう。
(2020.10.8)


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