日本のカナヘビ類 解説 日本のカナヘビ類トップへもどる
日本には6種のカナヘビ類がいます。そのうち5種はカナヘビ属(Takydromus)に分類され、残りの1種はコモチカナヘビ属(Zootoca)に分類されます。どちらもカナヘビ科(Lacertidae)に属します。カナヘビ科はアジア・アフリカ・ヨーロッパに分布し、350種ほどが知られます。
カナヘビ属はアジア東部に分布し、24種ほどが知られます。コモチカナヘビ属はコモチカナヘビ1種のみが属します。コモチカナヘビはヨーロッパのほとんどの国とロシア、中国などを経て日本の北海道の北端まで分布する東西の分布範囲がもっとも広いトカゲ類です。卵生の個体群(亜種)と胎生の個体群(亜種)が知られ、胎生は寒冷地での繁殖が可能なことから、広い分布域をもつことができた要因のひとつと考えられています。
日本のカナヘビ属5種は分布域が重ならず、ニホンカナヘビは北海道から九州、トカラ列島の諏訪之瀬島まで、アムールカナヘビは対馬、アオカナヘビはトカラ列島の宝島、小宝島から奄美諸島、沖縄諸島まで、ミヤコカナヘビは宮古諸島、サキシマカナヘビは八重山諸島に分布します。系統関係は、日本の種類の中ではニホンカナヘビとアオカナヘビが古く分岐し、その次にサキシマカナヘビとアムールカナヘビが分岐し、ミヤコカナヘビは中国・台湾のキタカナヘビ、スタイネガ-カナヘビとともに比較的新しく分岐したと考えられています。カナヘビ属以外の属との関係ではコモチカナヘビ属は比較的近縁です。ただ、現在北海道に分布しているコモチカナヘビは、比較的新しい年代にサハリン経由で分布したことがわかっていて、祖先系というわけではありません。
生態学的には、ニホンカナヘビ、アムールカナヘビがブラウン系の体色で、地表を中心に生活し、1回の産卵数が4個程度という特徴をもち、アオカナヘビ、ミヤコカナヘビ、サキシマカナヘビがグリーン系の体色で、草木上を中心に生活し、1回の産卵数が2個程度という特徴をもっています。カナヘビ属全体でもこの2グループに生態学的特徴を分けることができます。カナヘビ属は年に2回以上産卵する複数回産卵です。細長い体形で尾が長く、草木のあいだや地面を素早く動く行動特性は、トカゲ類の中で際立っています。
アムールカナヘビ以外の4種はそれぞれの分布域で固有種です。どの種類も近年減少が目立ってきています。分布域が狭く、山地などの国立公園の保全地域がない宮古諸島に生息するミヤコカナヘビは、絶滅危惧の程度が高いことから、国内希少野生動植物種の指定による保護対策が進められています。アムールカナヘビは、朝鮮半島、中国、ロシアの極東地域にも分布しますが、形態的特徴に違いがあることなどから、対馬のアムールカナヘビについても絶滅しないように注意が必要でしょう。
カナヘビ属5種は、分布地域が違うので、現地で種を見分けることに苦労はないでしょう。体色や模様で見分けることも簡単です。体側に白いスジが通っているのは、ニホンカナヘビ、アムールカナヘビ、アオカナヘビで、アオカナヘビは体色が緑色です。ニホンカナヘビとアムールカナヘビは茶色系ですが、アムールカナヘビは体側と背のあいだの茶色の帯が菱形の連続模様になっています。ミヤコカナヘビは白いスジがなく、背中が薄茶色の個体がたまにいますが、基本的には全体的に緑色です。サキシマカナヘビも緑色ですが、眼の位置を通る黒いスジがあります。鱗の主な形態形質をあげると表のように区別できます。表の4つの形質で区別できますが、まれに鼠径孔を3対もっているニホンカナヘビがいることなどがありますので、総合的に判断することが必要です。
表 日本のカナヘビ類の主な鱗の形質の一般的な数
種名 | 咽頭板 | 腹板列 | 背板列 | 鼠蹊孔 |
ニホンカナヘビ | 4対 | 8列 | 6列 | 2対 |
アムールカナヘビ | 4対 | 8列 | 6-8列 | 3-4対 |
アオカナヘビ | 3対 | 6列 | 8-10列 | 1対 |
ミヤコカナヘビ | 3対 | 8列 | 6-8列 | 1対 |
サキシマカナヘビ | 4対 | 6列 | 10-14列 | 2-3対 |
コモチカナヘビ | 5対 | 6列 | 注1 | 8-11対※ |
注1:背面と側面の鱗は細かく、合わせて28-32列.※コモチカナヘビは大腿孔の数.
頭側面、左からニホンカナヘビ、アムールカナヘビ、アオカナヘビ、ミヤコカナヘビ、サキシマカナヘビ、コモチカナヘビ
顎の下面の左右の大きな鱗が咽頭板、左がニホンカナヘビ(4対)、中央がアオカナヘビ(3対)、右がコモチカナヘビ(5対)
後肢の付け根の内側の鱗にある小さな穴が鼠径孔、左がアムールカナヘビ(4対)、中央がサキシマカナヘビ(2対)、右はコモチカナヘビの内股の大腿孔
胴部背面の鱗列。左からアムールカナヘビ、サキシマカナヘビ、コモチカナヘビ
胴部腹面の鱗列、左からアオカナヘビ、アムールカナヘビ、コモチカナヘビ(♂)
参考文献
Lin, S.-M., C. A. Chen, K.-Y. Lue. 2002. Molecular phylogeny and biogeography
of the grass lizards genus Takydromus (Reptilia: Lacertidae) of East Asia. Molecular Phylogenetics and Evolution
22:276-288.
Ota, H., M. Honda, S.-L. Chen et al. 2002. Phylogenetic relationships,
taxonomy, character evolution and biogeography of the lacertid lizards
of the genus Takydromus (Reptilia: Squamata): a molecular perspecitive. Biological J. Linnean
Society 76:493-509.
Takenaka, S. 1989. Reproductive ecology of Japanese lacertid lizards. Current
Herpetology in East Asia:364-369.
竹中践. 2021. カナヘビ科. 146-154pp. 日本爬虫両棲類学会編. 新日本両生爬虫類図鑑.サンライズ出版.
(2021.2.4)
(2021.10.15 形態形質を加筆)
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