この解説はカナヘビ類の飼育を勧めるのではなく、野生個体保護のため、もし飼育観察する場合は、カナヘビを長期間健康を維持できるように努力していただくためのものです。長期間観察できることで、野生のカナヘビの大切さを理解できるかもしれません。ここではカナヘビ属(Takydromus)を対象としています。他のトカゲ類には適さない条件もあります。(最終改訂 2020.9.19)竹中 践
飼育容器
ここでは一般的な30センチから45センチ水槽で飼う場合を説明します。水をまくように与えるのでガラスまたはプラスチック水槽がよいでしょう。通気が必要で、上から照明(バスキング用ライト)を当てる必要があるので、水槽にガラスふたをつけて密閉することは避けます。カナヘビはガラス面を登れませんので、水槽の高さが25センチ以上あれば、ふたがなくても飼育できます。枝葉などを立体的に配置したい場合は金網ふたをかぶせます。
水槽の天井の位置に電球ソケットを取り付けて40W程度のバスキング用ライトを付けます。私は8センチ程度の幅の板を渡して下向きに磁器レセプタクルを固定した手作りの電球用ソケットを取り付けています。ライトはタイマーで昼間に30分から1時間程度を何回か点灯するようにします。野生のカナヘビは日なたで日光浴(バスキング)を行って、草むらの中で餌を探すといった行動をしていますので、水槽が小さめの場合は長時間ライトがついたままというのは好ましくありません。
ランプ照明は、野外の日光の代わりになります。日光浴は体温を高めて行動するためと、ビタミン代謝のために必要です。ビタミンは、爬虫類専用のビタミン剤を餌に添加することでまかなえますが、活動中の体温調整は必須で、35℃程度に体温を高めることができないと行動が不活発になるだけでなく、餌の消化や代謝がうまくいかずに、健康状態が悪くなります。日光や照明にあたることで、自分自身の体温を適切に調整をするので、飼育容器全体を保温することはよい方法とはいえません。
飼育容器の置き場所は、可能であれば窓際の日の当たる場所がよいです。しかし、容器内が35℃を越えるような場合は暑さで死亡することがありますので、注意が必要です。午前中だけ日がはいるといった場所がよいでしょう。まったく日の当たらない場所で飼育する場合は太陽光に近いタイプのバスキング・ライトを使用したほうがよいでしょう。
解説 体温とバスキング
容器内に置くもの
水槽底には吸湿性で乾燥しやすい材質のものを敷きます。爬虫類専用の敷き材もありますが、園芸用の赤玉土で十分です。野外の庭の土などは粘土質が混じっていてカナヘビの指先に付いてかたまることがあるので適しません。新聞紙などを敷くのはカナヘビの閉じこめの危険があるのとカビが発生しやすいので適しません。敷き材は、行動する場所を乾燥した状態に保つとともに、糞などがすぐに乾燥して、清潔な状態を維持するのに役立ちます。水槽などの底面が隠れる程度でよいです。また、繁殖するときに産卵する場所としては3、4
センチの深さの赤玉土を湿らせて、その上に割れた鉢片などを置いて産卵場所にします。
水や固形飼料を与えるときのために、ごく浅いプラスチック製の皿のようなものを置きます。皿状のものを置く場合は裏返して水がたまらないようにします。
カナヘビが隠れるために割れた鉢片や木片などを置きます。落ち葉などは自然ぽく見えますが、カビが生えやすいので十分注意してください。ペーパタオルなどを適度な大きさに切って隠れ場所にすると取り替えやすいので清潔に保ちやすいといえます。水がかかって閉じこもって窒息するといった事故には注意しましょう。
コケ類やポトスなどの観葉植物を水槽の一部に植えることで空間に変化をもたせてもよいです。その場合、容器内が湿りすぎないようにすることや水槽の上縁にカナヘビがとどくことがないように置き方には注意が必要です。ビニール「つる」も適した隠れ場所になります。
ココナツ系の敷き材が爬虫類用に売られていますが、カナヘビ類には適しません。細長い繊維を誤って餌と一緒にのみ込みかけて死亡することがあります。
赤玉土、ハイドロカルチャー用粒土、バークチップを敷き、ポトスを赤玉土に植えて、隠れる場所として鉢片や紙、水滴をたらす皿、バスキングライトを上に設置した例(左)。繁殖期には湿った赤玉土の区画をつくるとよい(右)。
飼育数
カナヘビ類は個体干渉が少ないほうですが、多数を同じ容器で飼育するのはあまりよくありません。傷つけ合うこともありますし、餌の奪いあいなどから、栄養状態などに差が出てきて、極端な場合は死亡する個体がでます。ひとつの容器で飼育するのは1、2個体とし、理想的には普段は単独飼育、繁殖時期のみ一時的に雌雄を一緒にするというのがよいでしょう。幼体についても同じです。野外では接近して日光浴をしていることがありますが、限られた空間の飼育容器内に一緒にするのは慎重にしたほうがよいでしょう。
餌・水
一般的な生き餌としては、ミールワームやフタホシコオロギ、ヨーロッパイエコオロギを用います。生き餌はできれば、爬虫類専用のミネラルやビタミンの粉を時々まぶして与えます。フタホシコオロギとヨーロッパイエコオロギの成虫は大きすぎてカナヘビ類の餌には適しません。小形の幼虫を専門的なペットショップで入手するか、成虫を飼育して産卵させて、小さいコオロギを殖やすのがよいでしょう。
コオロギの繁殖は容易で、赤玉土などを湿らせた産卵場所と、段ボールなどを重ねた隠れ場所を作り、コイの餌などを乾燥したまま与えておきます。夏季であれば2週間ほどで幼虫が現れ始めます。容器は密閉せずにカビが発生しないようにします。プラスチックやガラス製のはい上がれないものを使用します。
ミールワームはペットショップで販売されているときにはフスマを与えられた状態ですが、栄養状態を整えるために野菜を与えてから使用します。ミールワームやコオロギに与える野菜は必ず無農薬のものを使用します。湿った状態にならないように、容器はふたをせずに、ふすまやおがくずを入れた上に野菜を少量置きます。
野外のカナヘビの胃内からは大量の植物片がでてきますが、バッタやイモムシなどの消化管から出たものです。カナヘビは動物食ですが餌昆虫の胃内容物からビタミンなどを得ている可能性が考えられます。
ミールワームのさなぎも餌と認識して食します。カナヘビの調子をみているとミールワームのさなぎは良質の餌と考えられます。さなぎを過ぎて親が出てくるとしばらくして非常に小さな幼虫が現れ始めます。
カナヘビは固形飼料を与えて飼うことも可能です。リザードフードなどの雑食トカゲ用の飼料を使います。着色や香料を添加したものは食べません。固形飼料は乾燥ペレットで、使用前に水でふやかしてから与えます。ピンセットなどで食べられる大きさにきって与えます。慣れていない個体にたいしては、水やり前に与えると、表面の水分をなめて、それから餌と認識して食べるようになります。何回か試していると食べ始めますが、個体によってはまったく食べないものもいます。アオカナヘビのほうがニホンカナヘビよりもペレット飼料に慣れる個体が多いように思います。
餌は毎日与える必要はありませんが、あまり空腹が続くと調子を崩すことがあるので、3、4日に1回程度は与えたほうがよいでしょう。
野外から虫などを採集して与えるのは手間がかかりますが、野外でカナヘビ類は徘徊性クモ類をかなりの割合で食していますので、ときどき好物を与えるのは刺激となってよいかもしれません。
水は、霧吹きなどで、皿やビニールつるあるいは植物にふりかけて与えます。野外のカナヘビは朝露をなめて水を補給しますので、蒸留水のような清潔な水を飲んでいるわけです。たとえ新鮮な水であっても、皿などにたまった状態の水は好みません。ふりかけた水は短時間に蒸発するようにして、古い水が残らないようにします。コケ類にしみ込んだ水も好みます。水やりは1日に1回で十分ですが、ほぼ毎日水やりをしたほうがよいのでしょう。何日か留守にするときは、清潔な容器に多めの水を入れておきます。清潔な水を与えることは体温調整のためのバスキングとともにカナヘビを健康に飼育するためのかなめです。
カナヘビは、からだがぬれるのを嫌います。水やりは容器内の隠れ場所までぬらすことがないように気をつけます。湿気がこもると病気の原因となりますので、皿やビニールつる、コケ類などの一部分をぬらすのがよいでしょう。野外のカナヘビは、雨天でも水がしみこまない比較的乾いた場所に隠れています。
解説 カナヘビの餌
4月から7月にかけて雌は卵をつくり産卵します。栄養が十分に得られている場合は2、3週間に1回程度産卵します。交尾は同じ時期に行われます。雄は雌の下腹部を横から咬んで交尾姿勢をとりますので、交尾を終えた雌の腹部には横V字の痕がつきます。交尾姿勢に入る前に雌の尾のねもとを咬んでから腹を咬みなおすことがあるので尾にもかみ痕が残ります。
飼育下では、赤玉土などを湿らせて、その上に割れた鉢片などを置いておけば、そこに入って産卵します。アムールカナヘビはやや深く穴を掘って産卵しますが、他のカナヘビ類は土の表面に出ている状態で産卵します。野外では薄い石や木片の下とか草のねもとなどに産みます。卵はとりだして、密閉容器に赤土を湿らせて敷いて、その上に置いてふたをしておきます。孵化までには30日程度かかります。孵化幼体は体長(口先から排泄孔)が25〜30ミリ程度、尾長は体長の2倍程度、体重が0.3グラム程度でたいへん小さいので、親と一緒にすることはできません。親は子を認識することはないので捕食される危険があります。ニホントカゲの場合は孵化幼体をすぐに食べてしまいますが、カナヘビ類はふつう食べはしませんが、危険性はあります。孵化幼体の餌は1、2ミリのコオロギを与えます。2週間ほどしたら固形飼料を試し始めます。孵化幼体からの飼育はむずかしいので、あまり勧めません。
飼育容器内のポトスの根元に産まれた卵 湿らせた赤玉土の上に置く 容器のふたをする
一月ほどすると孵化します。大きい容器に孵卵容器を入れてからふたをあけて出します。孵化幼体の飼育はむずかしいので、親が生息していた場所にすぐに放したほうがよいでしょう。
解説 カナヘビの孵化
【雌雄の見分け方】雄は、交尾器が総排泄孔(いわゆる肛門)の後方の尾のほうに反転して収められているので、雄の尾の基部は雌より太くなっています。腹の側を向けて尾の基部を前方にむかって圧迫すると総排泄孔の両端に半透明の白いふくらみが見えてきたら雄です。カナヘビ類は見分けが簡単なほうです。雄のほうが頭ががっしりしているとか、鼠径孔(排泄孔の両側にある穴のあいた鱗)が雄のほうが大きいといったことなど、ほかにも違いもありますが、慣れないとわかりにくいでしょう。
左:雌、右:雄(アムールカナヘビ)
ニホンカナヘビなど、北のほうに分布する種類は冬眠します。アオカナヘビなどの南の種類は活動が不活発になるものの冬眠はしません。冬眠する種類は凍らない程度の低温におくほうがよいのですが、冬眠状態にするのは注意が必要なので、ある程度活動させたまま越冬させるほうが無難です。冬眠させる場合は、晩秋に食欲が落ちてくる頃に水のみを与えてしばらく生活させ、排泄が尿(白いかたまり)だけになったら、湿り気のある土中にもぐるようにするか、湿らせたミズゴケを入れた食品容器に入れて冷蔵庫の野菜室に置きます。野外で、凍らない場所で、乾かない状態で冬眠させることもできますが、その地方の冬の状況によって難易度は異なります。
冬眠させずに越冬させる場合は、水やりを継続しますが、餌はほとんど食べなくなります。低温のまま動けずに乾燥死する危険や照明を与えすぎて消耗してしまうといった危険がありますので、注意が必要です。照明時間を減らし、餌やり頻度も減らします。生き餌が食べ残されて容器内を動き回るというのはよくないので、食べ残しは回収します。状態がよければ、低温にしておいて餌をほとんど食べなくても痩せるようなことはありません。
3月頃になると代謝の状態に変化がでてきます。食欲が回復して痩せてくるようになったら、餌を与える頻度を増やしていき、通常の状態にもっていきます。春に繁殖活動に入るときに、雄と雌で繁殖活動の始まりがずれていることがあるので、春先は雌雄別にしておくほうがよいでしょう。
脱皮殻
カナヘビは脱皮によって体表面を健康的に保ちます。脱皮殻は一部分ずつはがれていきますが、胴体部分がまとまって脱げるときもあります。
脱皮中のアオカナヘビ(左)と脱皮殻いろいろ(下)
左と中央はアオカナヘビ、右はニホンカナヘビ
カナヘビの解説
カナヘビとダニ
カナヘビの卵生と胎生
カナヘビの行動範囲
ニホンカナヘビ